脂肪腫
脂肪腫
脂肪腫とは、皮下の脂肪組織が増殖することによって生じる良性腫瘍です。体表のさまざまな部位に生じ、皮膚の下のやわらかいできものとして触れることができます。脂肪腫の内部に含まれる細胞の成分によって、線維脂肪腫、筋脂肪腫などいくつかのタイプに分かれます。腫瘍の内部で血管が増殖しているタイプは血管脂肪腫と呼ばれます。
治療をしないと徐々に拡大していくケースが多数を占めます。
形成外科には皮下腫瘍の相談が多く来院されます。そのなかで「皮膚科やかかりつけ医から脂肪の塊と言われた」と来院される患者は、脂肪腫ではなく「粉瘤」である場合のほうが多い印象です。
粉瘤は以前にも紹介しましたが、表面の皮膚がまくれ込んでできた「皮膚の袋」のような状態であり、中にたまっているのは脂肪ではなく「垢」です。粉瘤についても取るかどうかと言われたら、早めに摘出を勧めています。以下に以前の記事へのリンクを貼っておきます。
「脂肪の塊」と表現されるべきは「脂肪腫」なのですが、なぜか粉瘤を含めてすべて皮下のしこりを「脂肪の塊」と表現されがちです。詳細は不明ですが、単純にそのほうが患者様には説明として「楽」なのでしょうか。
来院された患者様には「脂肪の塊」である脂肪腫と、「皮膚の袋に垢がたまったもの」である粉瘤の違いからきちんと説明しています。
脂肪腫は摘出後に病理組織検査を行った結果、確定診断されます。そのときの病理像は「脂肪細胞はほぼ正常であり、正常脂肪と区別できない」と返ってきます。病理学的には「脂肪細胞に異常がないが腫瘍化している」ものということになります。なぜ大きくなるのか不明です。たいていは被膜があり、被膜内部の脂肪が増殖して、脂肪粒自体も大きくなっているのが肉眼的にも確認でき、あきらかに正常な脂肪とは違うのですが、「病理的には正常と変わらず」なのです。
原因も不明ですし、体の脂肪があるところではどこにでも発生します。額は前頭筋下に発生しやすかったり、後頸部は周囲と癒着しやすかったり、部位によって多少特徴がある場合もありますが、それも個人差があります。
体の細胞で、こんなに頻度も多く、場所も原因も不確定で突発的に腫瘍化するものは他にないように思います。ほくろも良性腫瘍ですが、こんな突発的に出現したり大きくなったりしません。個人的にはかなり大きな脂肪腫を見ると何か「人体の神秘」的なものを感じてしまいます。
脂肪腫は1箇所でやたらと大きくなるタイプのものもあれば、小さくて多発するものもあります。大きくなるものは半年くらいの間に手掌1枚分くらいに拡大する場合もあります。実際はいつから存在していたか不明なので、どのくらいの期間でどのくらいのサイズになったかはわかりません。ゆっくり5−10年ほどかけて育て上げてから来院される方もいますし、短期間に大きくなって相談される方もいます。
一方で、2−3cm程度の小さめなものが全身に多発性に出現するときもあります。多い時には10-15箇所ほどの皮下腫瘍をすべて取りたいと来院される方もいます。
摘出した標本はどれも「脂肪腫」で、病理検査は「正常脂肪と区別できず」です。でも大きくなるタイプと小さく多発するタイプは臨床的には「違うもの」のように感じます。いずれも良性ですし病理も同じなので「脂肪腫」になりますが、臨床経過がここまで違うのに同じ疾患というのも不思議です。基礎研究などしてもらえると何か違いがあるのかもしれません。
脂肪腫を治療するべきか、放置してもよいか。
単刀直入に言えば、「見つかったら早めに取った方がいい」でしょう。個人的には外来に紹介や相談で来院された方には「小さいうちに取りましょう。」と勧めています。理由は「脂肪腫はそのままでは治らず、大きくなってくることが多いため、小さいうちに取らないで置いておくと、いずれ大きくなってより困ることになり、手術の規模も局所麻酔レベルから全身麻酔レベルになってしまうことがある」からです。
脂肪腫は良性腫瘍です。悪性(がん)ではないので、慌てる必要はないかもしれません。ただ機会を逃し、1年2年と放置すると、気づけばかなり大きなサイズになっているということもよくあります。
エコーでは脂肪層とほぼ同じような像で描出され、ときに被膜も捉えることができます。すこしサイズが大きいものであればCT検査で確認するのが最も手軽で一般的かもしれません。筋層と脂肪層はCTではっきり違いがわかります。脂肪層の中に脂肪腫があれば、うっすら被膜につつまれた脂肪腫が確認できます。仮に筋層内に脂肪腫があれば、その境界ははっきりと描出されるので大きな脂肪腫を見たら一度CTを撮影することは有意義です。
わかりにくいものであればMRIを撮影して、さらに詳細を見ることもあります。MRIは高性能なものであれば脂肪の隔壁までわかることがあるので、こちらも有用です。
外来で上記のような画像診断で「脂肪腫」と診断された場合、サイズが2−3cmと小さいなら局所麻酔で30分〜1時間程度の日帰り手術で摘出可能です。5−6cmとなると場所にもよっては麻酔が効きにくくなるところもあり、微妙になってきます。なるべく要望にあわせて対応します。10cmレベルになると、局所麻酔での摘出がかなり「しんどい」ものになります。腫瘍は深部で筋肉に癒着することもあり、腫瘍の裏側に麻酔が届かず局所麻酔での手術が困難になることがあります。その場合は全身麻酔での対応となります。
見つかったら早い目に対応しておけば日帰り、1週間後の抜糸であっさり治療が完了できるので、「見つけたら早めの手術」を勧めています。
(手術費用のみの費用です。実際は検査費用や麻酔、薬の費用などが付加されます。)
K005 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)
K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)
術後の処置については、当院では患者様自己にて行えるように「翌日からの処置方法」について記載した説明書きを準備しています。看護師から処置の仕方について、内服や軟膏の使い方について説明を聞いていただき、帰宅となります。
抜糸は1週間くらいで行うことが大半です。関節にまたがる部分やよく動く部分については2週間くらいで行います。外来で麻酔はせずに糸だけ切って抜きます。よく「抜糸は痛いですか?麻酔はしないのですか?」と聞かれますが、抜糸はほとんど痛くないので、心配しないでいいと思います。少し引っ張られる感覚がありますが、子供さんでも泣かずに抜糸できることが多いです。
抜糸後は傷跡にテープを貼って固定してもらうことがあります。これは傷に直接かかる力を分散して、傷跡の広がりを抑えるためです。1週間位貼りっぱなしでもいいのですが、剥がれやすい部位の場合は2−3日ごとに交換してもらいます。部位によってはテーピングしない場合もあります。
右下腹部の皮下腫瘍の主訴で来院。エコーにて脂肪腫が疑われるため局所麻酔したに摘出術を施行。腫瘍の存在する部位をマーキングして、直上を切開します。脂肪腫は皮膜をしっかり同定して剥離できれば、綺麗にツルッと摘出できることが多く、綺麗に取れた場合は再発も少なく落ち着きます。
気になるしこりがある方は是非一度ご相談ください。