きずあと
きずあと
「手術や怪我の痕をきれいに治したい。」そういうときは形成外科を受診しましょう。
術後の傷跡を少しでも綺麗に落ち着かせるには、後療法が大切です。手術時に切開の角度やデザイン、埋没縫合など、色々と工夫をするとより綺麗に安定化できます。
「救急で縫合された傷」や「すでに手術が終わったあとの傷」に対して、今から出来ることを説明します。
術後の傷に対して、テーピングで固定する「テーピング療法」は形成外科術後では一般的に行われています。テープの種類は色々ありますが、3M ネクスケア マイクロポアテープ(茶色)が推奨です。
テープを傷の上に直接貼ります。傷に対して横切るように固定するのが理想ですが、小さい傷であれば上から貼るだけで効果がでます。
テープは紙で出来ており、伸び縮みしないので、傷を直接テーピングで固定することで、皮膚にかかるテンションが分散されます。傷に対する「添え木」のような役割で、傷を安静に保つことができます。
一度貼付したら、2−3日はそのまま貼りっぱなしでOKです。入浴時も貼ったまま入れます。水に濡れても、しばらくすれば紙で出来ているので乾いて乾燥します。3日目くらいの交換時には、糊が皮膚に残ることがあるので、丁寧に除去して、乾かしてから再び貼付します。
1か月ほどは2−3日ごとのテーピングを繰り返します。
傷は術後1か月ほどの間は表面は治癒していても、深部の反応は収まっていません。深部でより強く硬くなろうと組織修復が進んでいます。その時期に「外的な力:ひっぱられる力」がかかると、それに抗うように強く硬くなろうとして膨らみます。ミミズ腫れのような傷はこのようにして形成されます。
なるべく傷を綺麗にするには、術後3か月ほどはテーピングしてもかまいません。手間はかかりますが、最初の2−3か月は反応して硬くなる時期なので、テーピング固定が効果します。
顔の傷や、とくに綺麗にしたい部位の傷には、テープ固定よりもより強固な固定を推奨しています。ピタシート(ALCARE)という傷を固定する専用の固定素材があります。「ハイドロコロイド」という肌に優しい素材で、固定力のある適度な硬さで透明粘着型シート状になっています。
ピタシートもマイクロポアと同じく、傷に直接貼付して2−3日毎に貼り替えます。貼ったまま入浴しても構いません。
シート表面のテカリが気になる方は、上から3Mマイクロポアテープ(茶色)で覆うようにテーピングしてもいいです。
もしテーピングをしていても傷自体が肥厚してきたら、フィックストンというスポンジ型固定材料で創部を直接圧迫します。
使い方は、傷の上に細く切ったフィックストンを貼付して、上から3Mマイクロポアテープなどでフィックストンがペタンコになるくらいテープで圧迫固定します。
フィックストンのスポンジのバネ力がテープで押し付けられることで、肥厚してきた傷に圧迫力がかかり、平坦化してきます。マイクロポアやピタシートより少し手間がかかりますが、圧迫力をかけるにはテープ製品だけでは難しいので、膨らみ始めた傷には使用する価値があると思います。
膨らんでミミズ腫れになってしまった傷には圧迫療法が効果します。お腹の手術の縦に長い傷など、下着で圧迫されているところだけ綺麗に治っていたりするのはそのためです。
すでに膨らんでミミズ腫れ状態になってしまった創部に対しては、ステロイド含有テープ剤(エクラープラスター)で隆起や反応を抑えることが効果的です。
エクラープラスターは厚みがあるテープで、ステロイドの強さは「強め」です。
傷の大きさに合わせてハサミで切って、直接傷に貼付します。24時間ごとの交換が必要なので、入浴後などに習慣づけるといいと思います。ミミズ腫れ状態の傷は痛みや痒み、赤みなどが強いことがありますが、ステロイドテープ剤をしっかり1か月ほど継続すると、痒みや痛みは軽減してくることが多いです。
見た目も半年ほど継続すると平坦になり、赤みも抑えられて目立ちにくくなってきます。一度膨らんでしまった創部は、膨らみが改善しても幅広の瘢痕状態が細くなることはなく、最終的的に見た目を線一本の傷に綺麗にするには再手術で瘢痕除去するしかありません。
分厚く膨らんでしまった傷跡にはステロイド(ケナコルト®)を直接傷跡の中に注射する治療があります。
注射によって赤みや盛り上がりは減少しますが、周囲の皮膚の菲薄化が生じることがあります。
また硬い瘢痕の中に注射するため、大変強い痛みを伴います。いきなり注射の治療を行うと、たいてい痛みが強すぎてその次の外来には患者様が来なくなってしまいます。注射の前には痛みや、治療効果についてしっかり説明してから、希望される方には施行しています。(局所麻酔と混ぜて注射します)
女性ではステロイドの影響で生理不順が生じることもあるため注意が必要です。
中には手術加療で切除して埋没縫合をしっかり効かせれば再発なく治癒する瘢痕もあります。外傷による瘢痕の場合は初期の傷が埋没縫合をしていない場合も多く、挫滅を伴う創部が保存的に治癒して肥厚性瘢痕を生じている様な場合には単純切除も効果的です。
外力に反応して傷が肥厚している部位に対しては単純に切除縫縮するだけでは再発する可能性が高くなります。外力を逃すためにZ形成術という手技を用いて治療します。直線の瘢痕よりもジグザグに縫い上げるZ形成術の方が外力が分散されるため、再発が抑制されます。見た目が幾何学的な傷跡になることが欠点です。