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2022年7月より保険診療はオープンします。形成外科の保険診療でどんな疾患に対応してもらえるのか、よくわからないという方も多いと思います。今回は形成外科で扱う疾患や治療についての紹介(第2回)です。前回に引き続き具体的な内容で紹介していこうと思います。
個別の疾患や治療については、今後もブログで紹介していきますので、ぜひ「LINE公式アカウント」に「友だち登録」をお願いします。
巻爪・陥入爪
足の爪が食い込んで痛くなること、ありませんか?陥入爪は「爪の側方が陥入して皮膚に食い込んで痛みがでる」状態です。深爪がきっかけになったり、爪のささくれを手でひっぱってちぎったりすると、その切れ端が食い込んで生じたりします。陥入爪は形成外科で治療できます。軽傷では軟膏治療やテーピング療法などで治ることもありますが、病院にまで来院される方は大抵1−2ヶ月ほど治癒しないなど、比較的陥入爪が慢性化した状態の方が多く、手術治療の適応になることもあります。今回は実際に手術が決まったという前提のもとに、陥入爪の日帰り手術の流れについて説明します。
食い込んだ爪の除去と爪母の切除
手術はまず爪の食い込んでいるところを除去して、爪の「根っこ」にいる爪母と呼ばれる爪を作る細胞をとってしまうところから開始します。爪を除去する幅は陥入の程度や爪の弯曲の程度によって変えていますが、一度細くしてしまうと戻せないので、若年者の場合は慎重に切除幅を決定します。
爪母は爪の根っこの奥に存在します。これは11番と呼ばれる先の尖ったメスで皮膚を傷つけないようにくり抜くように除去します。
こうすることで爪がその切除した幅分だけ生えてこなくなります。爪を抜くだけでは、半年もすると同じところに爪が生えてきてしまい再発する可能性があるため、爪母をうまく切除することが大切です。
フェノール法という薬品で爪母を焼灼する方法をされることもあります。私も過去に行っていましたが、フェノールはあくまで「薬品による細胞の腐蝕」であり、メスで切除するような確実性に欠けます。焼いたところは火傷状態なので治癒が遅れたり、思った以上に焼けてしまうことや、焼き足らずに再発することもあります。11番メスで確実に爪母を除去する方法(狭いスペースですが肉眼でも確認できます)に変えてからは、しっかり取り残しなく爪母を切除できるので、安心感があります。火傷状態でもないので、その後の治癒が安定しているので、ここ4−5年はこの方法で行っています。日帰りで30分で施術が可能で、疼痛も少なく、経過が安定します。
欠損腔の縫合閉鎖
爪母を切除したところは5−6mm程度の空洞になっています。先に述べたように火傷の傷ではないので、そのままでも埋まって治癒するのですが、術後の出血など見られるので、圧迫と欠損腔の閉鎖を目的に縫合します。
欠損腔を含めて皮膚側からマットレス縫合という縫い方で縫合します。欠損腔ごと糸で縫い縮めるような形になります。小さな腔なのでだいたい1−2針で閉鎖できます。最後に爪と皮膚を針で寄せて出口も完全に塞いでしまい、出血をなくします。
ほとんど出血しませんが、万一滲み出るような出血があった場合は、その場でガーゼを当てて5分ほど圧迫すれば完全に止まります。完全に止まった状態を確認してからガーゼ保護などのドレッシングを行います。
まだ出血がつづいているのにガーゼ保護してしまうと、そのあと帰宅するときに足に力がかかり、だいたい会計をしているころにガーゼに血が滲み、戻ってこられます。そうならないように、しっかり止血を確認して、帰宅に問題がないようにガーゼ圧迫もきっちり行います。
爪みずむし
足の爪が濁っている。
足の爪が分厚く変形している。
足の爪の周りに白い粉がついて、一部が崩れてくる。
そういう症状でお悩みの方、爪の水虫の可能性があります。
最近は外用の爪水虫薬が効果的で、皮膚科からの薬を塗るだけの治療で治る方もいますが、一度分厚く変形してしまうと爪に薬が浸透しにくくなり難治化、結果として外用を塗りつづけても改善しません。
どんどんひどくなっているような方には、フットケア外来で行っている「フットケアドリル」による爪甲除去術が有効です。解説します。
爪水虫の原因は?
爪水虫は医学的には「爪白癬」と言われる、カビ(真菌)による感染症です。爪白癬になると、爪が徐々に濁り、分厚くなり、白い粉のようなクズが付着するようになります。
見た目はこの様な濁った爪、分厚い爪、まわりに白い粉が付着するような状態になります。放置していくと徐々に爪は変形して、最終的にはセミの抜け殻のような分厚い爪になってしまうことがあります。
変形の仕方は様々でときには巻き爪のような変形になり痛みを伴うこともあります。
爪水虫をあなどるな。放置すると危険な場合も。
爪水虫はそれほど急には進行しません。命に影響するような状況になることもごく稀です。
しかし、高齢者の方や免疫低下している方などで爪水虫をきっかけとして足に蜂窩織炎を生じたり、分厚くなった爪を引っ掛けたりするきっかけから、足趾の難治性潰瘍を生じたりすることがあります。
爪水虫により足の親指の爪が分厚く変形した状態で放置していると、階段で引っ掛けて爪の下がめくれ、血が溜まった状態になり、そこに細菌感染が生じてしまうことがあります。困って来院されたときには母趾全体が腫れていて、爪のすぐ下にいる骨まで溶けている状態、骨髄炎になってしまいます。
分厚くなった爪水虫の効果的な治し方は?
一般的には皮膚科など受診されると、まず爪水虫の検査を行い、顕微鏡で菌が確認されたら塗り薬での治療をスタートします。軽症の爪水虫ならそれで治癒することもありますが、白癬菌は爪の一番深部に多く存在するため、上から塗布するだけではうまく浸透せず、なかなか効果が見られません。
私たちの施設では、分厚くなった爪水虫の爪に対しては、まずはフットケアドリルによる爪の削除処置を行います。彎曲・肥厚した爪を9割以上削除して、爪のレールの部分だけ薄く残します。そこに塗布型の爪水虫用の外用薬を使うと、非常に効果的です。見た目も即時的に良くなるので、お勧めです。実際フットケア治療を施術している動画を下記にリンクしておきます。
爪甲除去のときに白癬の顕微鏡検査を行います。白癬が陽性であれば塗布タイプの白癬治療薬を使用します。当院では「クレナフィン(科研製薬)」をよく処方しています。フットケアで削ったあとの残った爪にも爪白癬は残存しており、塗布した薬剤が染み込んで効果します。
当院のフットケア外来の方針としては、まずは1ヶ月ごとの2回、フットケアドリルによる爪甲除去を行います。そして自宅ではクレナフィンによる薬物療法を継続しながら3−4ヶ月ほど爪の生え方を観察します。
爪の基部がきれいになって生えてくれば除菌成功です。先端に伸びてくるまで観察しながら、追加でフットケアが必要なら再び1−2回ほど削る処置を加えます。
この方法で、6ヶ月ほどでかなり爪の状態は改善する方がほとんどです。爪による悩みがなくなり、患者様の満足度は非常に高くなります。
腋臭症・原発性多汗症
わきが(腋臭症)の保険治療
わき(脇)の体臭が強くてお悩みの方も形成外科で保険治療ができます。「わきが(腋臭症)」と言います。
腋臭症は汗を出す腺に細菌が付着することが原因です。汗を出す腺には2種類あり、「エクリン腺」と「アポクリン腺」と呼ばれます。アポクリン腺が臭いを出す原因と言われており、脇に限らず陰部や耳の穴などにも存在します。思春期にアポクリン腺が発達するので臭いの問題も思春期ごろにピークになります。
保険での日帰り手術治療が可能なのですが、病院によっては自費治療でも治療をしています。大きな違いは手術による「創の大きさ」です。自費では特殊な器具を使い小さな穴から手術を行い、アポクリン腺だけを除去する方法がとられています。ミラドライという電磁波を利用した「切らない腋臭症治療」も自費治療になります。
皮弁剪除法
保険治療では皮弁剪除法が一般的です。麻酔は局所麻酔を使用して行います。脇全体に局所麻酔を注射して感覚を無くします。
脇の中央に3cm程度切開を加え、そこから脇の「毛が生える部分」+1cm程度外側までを皮下剥離し、皮膚を反転させて毛根近くに存在するアポクリン腺を除去します。
手作業で皮膚表面に傷をつけないように、皮膚の血流を保ちながら丁寧に除去していきます。切開した部位から遠い部分についてはシェーバーを用いて除去します。一通りアポクリン腺の除去が完了したら、皮膚を縫合し、剥離した下床から皮膚が浮き上がらないように糸で牽引固定を数カ所行います。ガーゼとテープで圧迫して、包帯でさらに上から固定したら手術終了となります。
保険適応の基準
保険治療の適応基準は、腋臭症の場合明確な数値の出るような検査や画像診断がありません。主に問診や客観的な臭いの診察にて決まります。
「家族や他人(第三者)から脇の臭いについて指摘されたことがあるかどうか」
「白いシャツや下着が黄色くなったり、臭くなったりするか」
「家族内で同じような腋臭症の症状を有する人はいるか」
問診では上記のような質問をします。
次にガーゼを脇に挟み10分程度挟んでもらい、実際に臭いをチェックして「臭いが強いかどうか」の判断をします。大変原始的な方法です。もう少し数値化できたりしないか「腋臭症チェッカー」のような器具が販売されればよいのですが、そんなものはありませんのでガーゼチェックがいまでも主流です。
遠目からでもかなり臭う人は「問診するまでもなく手術適応」
鼻を近づけると臭う程度の人は「問診の状況も判断して手術適応を決める」
しっかり嗅いでも臭いがわからない人は「問診や悩みの程度をよく考慮して本人・家族と要相談」です。
手術で臭いが完全になくなるわけではありません。アポクリン腺は先述したとおり脇だけに存在するわけではなく、前胸部や背中からも臭いは生じます。脇のアポクリン腺も手術で完全にゼロになるわけでもありません。もともとの臭いに比べて「臭いが減る」治療だと思って治療を受けてもらっています。
臭いの治療は強い「コンプレックス」を伴うことが多く、患者さんはいろいろと辛い思いをして、一大決心して来院されている方もいらっしゃいます。対応するときは、そのあたりも考慮しています。
費用について
K008 腋臭症手術 皮弁法 6,870点 が手術の点数(費用)になります。片方の手術料金だけでは68700円ということです。片方だけ手術するという方は少ないため、両方で137400円、3割負担の方なら41220円ということになります。
日帰りの方なら、これに術中の薬剤の費用や処方の費用がプラスされます。
わきがの治療は汗が気になる季節に増えてきます。気になる方は形成外科に受診しましょう。
褥瘡・難治性皮膚潰瘍
創部の環境の悪さ
褥瘡は多くの場合、体の下になる部位に生じます。仰臥位では仙骨や踵、側臥位では大転子など、ベッド・床に当たる部位に自重がかかり、血流が巡らなくなって2−3時間そのままになってしまうと、皮膚・皮下組織が壊死してしまいます。壊死した細胞は数日後には水泡や黒色壊死組織となり、褥瘡として発見されます。
褥瘡の発生する部位は、必ずと言っていいほど何らかの圧迫がかかる環境にあります。自重であったり、装具であったり、外的な医療器具であったり。
治療を行う上で、「原因の除去」が非常に大切なのですが、自重がかかる仙骨褥瘡に対して「原因の除去」を行うには、頻繁な体位変換、電動エアマットレスによる除圧などが挙げられますが、完全ではありません。右側臥位→左側臥位の繰り返しで除圧しても、仰臥位の時間は減っているとはいえ、完全に仰臥位をしていないかというとそういうわけでもなく、結局仰臥位は避けられない場合がほとんどです。
すなわち、劣悪な環境、具体的には「ずれ・圧迫阻血」状態を伴いながら、その環境下で治療に導く必要があります。
年齢的な治癒力の低さ
次に問題になるのは「治癒力」です。同じような部位的デメリットがある状況としても、年齢が高齢になればなるほど褥瘡のリスクは高まります。これには様々な要因が影響します。より高齢者の方が筋力も低く、様々な合併症も持ち合わせていたり、食も細くなり体がやせ細って脂肪のクッションがほとんど無かったり。
細胞レベルでも、どんどん分裂能力は低下します。生物で習ったかもしれませんが、細胞の核に存在するDNAの末端にはテロメアという配列が存在し、細胞分裂するごとにテロメアは短縮していき、細胞老化が進んでいきます。
年齢が重なれば重なるほど、細胞の分裂能力も低下するため、褥瘡は発生しやすくもなれば治癒しにくくもなるわけです。
高齢者の治癒能力の低さを前提として、繊細な治療を進めていかなければなりません。いつも通りの治療が奏功しない理由の一つと考えます。
容易に再発する
このような劣悪環境や乏しい治癒力を伴う褥瘡を必死にコントロールして、全身管理と創部局所管理を行い、手術治療を完遂させ、完全治癒にまで何とか到達できたとして、問題は終わりではありません。
「劣悪環境」「低治癒力」についての問題点は常につきまといます。せっかく治った褥瘡もたった1日の「管理不良」により容易に再発します。
褥瘡を「再発させない」ということも、治療のうちだと考えます。
褥瘡と共存する考えも必要
褥瘡をなんとか治療して、縮小させ、完治に導くためにあらゆる努力を行います。しかし、治療できない褥瘡も存在します。高齢者の治癒力のなさを侮ってはいけません。無理に外科治療に踏み切ると、創部が良くなるどころか、全身状態を悪化させてしまうこともあります。
とにかく低侵襲で、患者の全身状態を把握しながら、できる治療を組み立てていきます。
中には「褥瘡」と「共存」するほうが、積極的治療よりも患者さんにとって良いこともあります。
状況を見極め、全身状態に悪影響を及ぼさない程度に褥瘡をコントロールするということも治療の一つです。そういった褥瘡と「共存」していく患者さんたちは、ふとしたタイミングで創部も増悪したりするので、経過をしっかり追っていくことが大切になります。
外傷、傷跡の治療
きずあとが膨らむ –ケロイドか肥厚性瘢痕か–
怪我の痕や手術の痕が膨らんで、痒みが出たり、痛みが出たりすることがあります。「ケロイド状に膨らんだ」などと表現することもありますが、本当の体質から発生している真の「ケロイド」は意外と少ないです。大半は「肥厚性瘢痕」と呼ばれる、体質に関係なく外力が影響して傷が膨らんだ状態であり、手術治療により改善が望めます。
ケロイドと肥厚性瘢痕の見分け方
両者は見た目だけでは区別が難しいと思います。定義としては、最初の傷の範囲を超えていない状態、すなわち傷の上だけが膨らんできて、傷の周りには広がっていかない瘢痕が「肥厚性瘢痕」であり、それとは異なり傷を超えて周りにどんどん広がっていく様な瘢痕が「ケロイド」です。
どちらも症状は似ています。痛みや痒みを伴うことが多く、治療後に再発しやすいという点でも似ています。
治療
①圧迫療法・固定療法
膨らんだ創部に対してスポンジを当ててテープなどで圧迫を継続する治療です。必ず効くわけではありませんが、うまく固定できると1−2ヶ月かけて徐々に膨らんできた瘢痕が平坦になってきます。テープで固定が必要なのでテープかぶれを起こしたりするデメリットもありますが、手間さえかければできる治療なので一度試してみる価値はあります。
瘢痕化が予想される創部に対しては、予防的に術後早期から傷の圧迫・固定に使用する被覆材を使用します。当院ではアルケアの「ピタシート」という製品を用いています。
②ステロイド含有テープ
痛みや痒みの症状を抑えたいときにはステロイド含有テープが有効です。ステロイドの薬剤の強さで2種の製品があります。
通常は「ドレニゾンテープ」を用います。もう少しステロイドの強度が強いテープとして「エクラープラスター」があります。ドレニゾンのほうがフィルム状の透明なテープなので、最初はこちらから使用してもらうことが多いです。もう少し強い効果が欲しい場合にはエクラープラスターに変更します。エクラープラスターのほうが少し厚みのある素材でできています。傷の状態に応じて使い分けています。
③手術療法
中には手術加療で切除して埋没縫合をしっかり効かせれば再発なく治癒する瘢痕もあります。外傷による瘢痕の場合は初期の傷が埋没縫合をしていない場合も多く、挫滅を伴う創部が保存的に治癒して肥厚性瘢痕を生じている様な場合には単純切除も効果的です。
外力に反応して傷が肥厚している部位に対しては単純に切除縫縮するだけでは再発する可能性が高くなります。外力を逃すためにZ形成術という手技を用いて治療します。直線の瘢痕よりもジグザグに縫い上げるZ形成術の方が外力が分散されるため、再発が抑制されます。見た目が幾何学的な傷跡になることが欠点です。
傷跡の治療・相談は形成外科に受診しましょう!
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